飲食店の運転資金はいくら?開業前に作る資金繰り表
飲食店の運転資金は、「家賃の何か月分」のような月数で決めるものではありません。開業後の月ごとの入金と支払いを表に書き出し、手元のお金がいちばん少なくなる月(資金の谷)を見つけて、その谷を越えられる額に予備を足す。これが、自分の店に必要な運転資金を出す方法です。この記事では、開業前に作っておきたい資金繰り表の組み方と、書き漏らしやすい支払い、そして「ここまで来たら計画を見直す」という線の引き方までを順にご説明します。
運転資金は、開店した日に手元に残しておくお金
開業資金は、物件の取得費、内装・設備工事費、厨房機器、備品、開店前の費用、そして運転資金でできています。このうち運転資金だけは「店をつくるためのお金」ではなく、開店した日に口座に残っていて、売上が安定するまでの支払いを支えるお金です。費目ごとの考え方は飲食店の開業資金のページで整理していますので、ここでは運転資金の額をどう決めるかに絞ります。
見落とされやすいのは、開業資金の見積りが膨らんだとき、最後に削られるのがこの運転資金だという点です。内装や厨房機器は見積書があるので金額がはっきりしますが、運転資金には見積書がありません。「残った分が運転資金」になってしまうと、開店日に口座にいくら残っているかは、成り行きで決まってしまいます。
「何か月分」で決めると外れやすい理由
運転資金について、月数の目安が紹介されることがあります。ただ、毎月の支払い額に月数を掛けるだけの計算には、2つのことが入っていません。
- 売上がどう立ち上がるか:開店直後から計画どおりの売上が立つとは限りません。最初の数か月にどれだけ届かないかで、必要な額は大きく変わります
- お金が出入りする時期:売上が立っても、入金が翌月になるものがあります。逆に、開店から数か月たってからまとめて出ていく支払いもあります
業態や立地によって、この2つはまったく違います。だからこそ、一律の月数ではなく、自分の店の数字で表を作る必要があります。
売上は「計画どおりに立ち上がらない」前提で置く
資金繰り表を作るとき、いちばん大事なのは売上の置き方です。開業前の売上計画をそのまま入れると、表の上ではお金が足りてしまいます。
参考になるのが、日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」です。同公庫(国民生活事業)が2024年4〜9月に融資した企業のうち、融資時点で開業後1年以内だった企業を対象にした調査で、調査時点(2025年8月)の開業からの経過月数は平均15.5か月です。この時点の月商を開業前に予想していた月商と比べると、予想を達成していたのは58.7%でした。
裏を返すと、開業から平均1年3か月ほどたった時点でも、4割あまり(41.3%)が予想月商に届いていないことになります。予想の75%に届いていない人も、合わせて27.1%いました(41.3%と27.1%は、同調査の区分ごとの割合を当社で合算した値です)。この調査は飲食店に限ったものではなく、全業種の数字です(出典:日本政策金融公庫総合研究所(日本公庫総研)「2025年度新規開業実態調査~アンケート結果の概要~」/2025年12月5日公表)。
ですから資金繰り表では、売上を少なくとも2通り置いてください。ひとつは、開店後に少しずつ計画へ近づいていく形。もうひとつは、計画の7〜8割で伸びが止まってしまう形です。
資金繰り表の作り方──4つの手順
表計算ソフトでも手書きでも構いません。横に開店後の月を12か月分並べ、縦に次の項目を置きます。
手順1 出ていくお金を「毎月ほぼ同じ額」と「売上に連動する額」に分ける
毎月ほぼ同じ額が出ていくのは、人件費、家賃、水道光熱費・通信費・消耗品、借入の返済です。個人で開業する場合は、ご自身の生活費もここに入れてください。先ほどの調査では、事業からの収入が経営者本人の定期的な収入のすべて(ほかに収入がない)という人が53.3%でした。店の口座と生活費が実質的につながっているなら、生活費を表から外すと、手元資金を多く見積もることになります。
売上に連動して増減するのは、主に食材や飲料の仕入れです。売上に対する割合で置きます。
手順2 売上は、立ち上がりのカーブで置く
1か月目は計画の6割、2か月目は7割、というように、計画に近づいていく形で置きます。何割から始めるかは業態と立地で違いますが、1か月目から計画の10割を置くことは避けてください。
手順3 入金と支払いの「時期」をずらして書く
ここが、損益の計画と資金繰り表の違いです。売上が立った月と、お金が口座に入る月は同じとは限りません。
- クレジットカードやキャッシュレス決済の売上は、決済サービスごとの締め日と入金サイクルに沿って後日入金されるのが一般的で、手数料も差し引かれます
- 仕入れは、取引の実績ができるまでは、後払い(掛け)ではなく現金での支払いを求められることもあります
- 給与は締め日と支払日が決まっているので、どの月の働いた分がどの月に出ていくのかを合わせて書きます
キャッシュレスの比率が高い店ほど、売上が立ってから入金されるまでの間を、手元のお金で支えることになります。
手順4 月末の残高を並べて「谷」を探す
開店日の手元資金から始めて、毎月「入金-支払い」を足し引きし、月末の残高を並べます。残高がいちばん低くなる月が、資金の谷です。運転資金は、この谷を越えられるだけの額が最低ラインになります。
具体的な数字で「資金の谷」を出してみる
仮の数字で見てみます。計画月商300万円の店で、毎月ほぼ同じ額が出ていく支払いが合計180万円(人件費80万円、家賃35万円、水道光熱費・消耗品・通信など25万円、借入の返済15万円、店主の生活費25万円)、仕入れは売上の30%とします。売上は開店1か月目の6割から、1か月ごとに1割ずつ計画へ近づいていく形で置きました。
| 月 | 売上 | 仕入れ(30%) | 毎月ほぼ同じ額の支払い | その月の収支 | 開店時からの累計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1か月目 | 180万円 | 54万円 | 180万円 | -54万円 | -54万円 |
| 2か月目 | 210万円 | 63万円 | 180万円 | -33万円 | -87万円 |
| 3か月目 | 240万円 | 72万円 | 180万円 | -12万円 | -99万円 |
| 4か月目 | 270万円 | 81万円 | 180万円 | +9万円 | -90万円 |
| 5か月目 | 300万円 | 90万円 | 180万円 | +30万円 | -60万円 |
| 6か月目 | 300万円 | 90万円 | 180万円 | +30万円 | -30万円 |
この店では、3か月目の終わりに手元のお金が開店時より99万円減ったところが谷です。4か月目からは毎月プラスになりますが、開店時の残高まで戻るのは7か月目です。つまり、開店日の口座に少なくとも99万円が残っていなければ、この計画は途中で止まります。しかもこの表は、売上がその月のうちに全額入金される前提で作っています。手順3のずれがあれば、谷はもっと深くなります。
伸びが止まると、底を打たずに減り続ける
同じ店で、売上が計画の8割(240万円)で伸びが止まった場合を見てみます。
| 月 | 売上 | その月の収支 | 開店時からの累計 |
|---|---|---|---|
| 1か月目 | 180万円 | -54万円 | -54万円 |
| 2か月目 | 210万円 | -33万円 | -87万円 |
| 3か月目 | 240万円 | -12万円 | -99万円 |
| 4か月目 | 240万円 | -12万円 | -111万円 |
| 5か月目 | 240万円 | -12万円 | -123万円 |
| 6か月目 | 240万円 | -12万円 | -135万円 |
最初の3か月は、さきほどの表とまったく同じ数字です。違いが出るのは4か月目以降で、こちらは底を打たず、毎月12万円ずつ減り続けます。
この店の場合、毎月ほぼ同じ額の支払い180万円を、売上から仕入れを引いた残り(売上の70%)でまかなうには、月に約257万円の売上が必要です。240万円では足りません。このときの不足は、運転資金を積み増しても解決しません。お金が尽きる時期が先に延びるだけです。必要なのは、売上か支払いの側の計画を見直すことです。
なお、この約257万円は、借入の返済と生活費まで含めた「お金が減らなくなる売上」です。決算書の上で利益が出るかどうかを見る損益分岐点とは違います。損益分岐点の出し方と、返済との関係は飲食店の利益率と損益分岐点のページで詳しくご説明しています。
後から出ていく支払い、まとめて出ていく支払いを書き漏らさない
資金繰り表で見落としやすいのが、発生した月より後に出ていく支払いと、ある月にまとめて出ていく支払いです。開業前の計画に入っていないと、谷の位置がずれます。
- 給与から預かった所得税:源泉徴収した所得税は、原則として給与を支払った月の翌月10日までに納めます。給与の支給人員が常時10人未満で、税務署に申請して「納期の特例」の承認を受けている場合は、1〜6月に源泉徴収した分を7月10日、7〜12月に源泉徴収した分を翌年1月20日にまとめて納めます(出典:国税庁ホームページ「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」)。この特例を使うと、半年分がまとまって出ていきます。口座にあっても、それは従業員から預かっているお金です。運転資金として数えないでください
- 社会保険料:健康保険・厚生年金保険に加入している場合、保険料の納付期限は対象月の翌月末日で、事業主の負担分もあわせて納めます(日本年金機構の案内による)。保険料は加入した月の分からかかるので、開店月に加入した分は翌月末に出ていきます。開店前の研修期間から加入している場合は、その月の分も表に入れてください
- 労働保険料:従業員を雇って労災保険・雇用保険の保険関係が成立すると、その年度の保険料を概算で申告・納付します(年度の途中に成立した場合は、成立した日の翌日から50日以内)。以後は毎年6月1日から7月10日までの「年度更新」で、前年度分の精算と新年度分の概算をあわせて納めます(出典:厚生労働省ホームページ「労働保険料の申告・納付」)
- 借入の元本返済が始まる月:融資の条件によっては、一定期間は利息だけを払い、元本の返済を後から始める「据置期間」が設けられることがあります。据置期間が明けると、月々の返済額が増えます。表の12か月の中にその月が入るなら、そこから返済額を書き換えてください
- 決算や確定申告のあとの納税:まとまった金額が出ていくことがあります。前年(法人は前事業年度)の税額によっては、年の途中に中間の納付が求められることもあります。時期と金額の見込みは、税理士に確認しておくのが確実です
- 季節で膨らむ支払い:夏と冬の空調による光熱費、繁忙期前の仕込みや人員の増強など
こうした支払いを表に入れると、谷が開店直後ではなく、半年後に来ることもあります。
運転資金の額と「見直しライン」を、開業前に決めておく
表ができたら、2つのことを開業前に決めてください。
運転資金の額=谷の深さ+見直しに要する期間の分
谷の深さちょうどでは、余裕がありません。売上が伸び悩んだと気づいてから、メニューや営業時間、人の配置を見直し、その効果が数字に出るまでには時間がかかります。その間も、先ほどの2つ目の表のようにお金は減り続けます。
そこで、谷の深さに「見直しにかかる期間の不足分」を上乗せします。先の例なら、4か月目に伸び悩みに気づき、手を打って効果が出るまでに3か月かかるとすると、月12万円×3か月で36万円です。谷の99万円と合わせて135万円、これに設備の故障など突発的な出費への備えを足したものが、この店の運転資金の目安になります。数字はあくまで例です。ご自身の店の表で同じ計算をしてください。
見直しラインは「売上」と「残高」の2本で引く
もうひとつは、どうなったら計画を見直すかの線です。開店後は目の前の営業で手一杯になり、判断が遅れがちです。だからこそ、線は開業前に、数字で決めておきます。
- 売上の線:「〇か月目になっても、月の売上がお金の減らなくなる売上(例では約257万円)に届いていなければ見直す」
- 残高の線:「口座の残高が〇〇万円を下回ったら、その時点で見直す」
売上を見直すときは、落ちている原因を客数と客単価に分けて確かめるところから始めます。その手順は飲食店の売上が落ちた原因|最初に見る3つの数字の記事でご紹介しています。
開店後は、毎月、予定の横に実績を書き込み、翌月以降の見込みを引き直してください。資金繰り表は、開業前に一度作って終わりにするものではなく、見直しラインまでの距離を毎月確かめるための道具です。
なお、融資の申込みや返済条件、税務の具体的なご判断は、金融機関や税理士など各分野の専門家が扱う領域です。融資のご相談で説明を求められるのも、ここまでご紹介した「いくら必要で、どの月にどう返していくのか」という数字の中身です。
開業前の資金計画から、ご一緒します
アトラクトは2006年の創業から、飲食店の経営支援ひとすじで取り組んできました。開業のご支援では、コンセプトと事業計画を数字に落とし込み、売上計画や損益分岐点、運転資金をいくら残すかまでを一緒に考えます。物件を決める前の段階からご相談いただけます。内装建築コストと採用経費を一括でパッケージにし、開業後のアフターケアまで続けてご支援しています。詳しくは飲食店の新規開業サポートのページをご覧ください。
「計画はあるが、運転資金の見積りに自信がない」「売上の置き方が甘くないか見てほしい」という段階で構いません。初回のご相談は無料でお受けしています。まずはお問い合わせからお気軽にご連絡ください。
出典:日本政策金融公庫総合研究所(日本公庫総研)「2025年度新規開業実態調査~アンケート結果の概要~」(2025年12月5日公表)、国税庁ホームページ「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」「No.2040 予定納税」「No.6609 中間申告の方法」、日本年金機構「厚生年金保険料等の納付」、厚生年金保険法第19条・第81条、厚生労働省ホームページ「労働保険料の申告・納付」。本記事では、これらの内容を要約・編集して紹介しています。資金繰り表の数字は説明のための仮の値です。


