飲食店の新人教育マニュアルの作り方とOJTの進め方
飲食店の新人教育マニュアルは、店の仕事を1つずつの作業に分け、作業ごとに「手順」「ポイント」「理由」「できている状態」を書くと、教える人が替わっても内容がぶれにくくなります。そのうえで、見せる・説明する・やってもらう・任せて確かめる、という順で進める現場での指導(OJT)と組み合わせるのが基本です。この記事では、マニュアルの作り方、OJTの進め方、覚えたことの記録のしかた、作ったあとに古くしない運用までを順に整理します。
マニュアルとOJTは役割が違う
新人教育がうまくいかない店では、「マニュアルはあるが誰も見ていない」か「マニュアルがなく、教える人ごとに内容が違う」のどちらかになっていることが少なくありません。マニュアルとOJTはどちらか一方で足りるものではなく、受け持つ役割が違います。
| 項目 | マニュアル | OJT(現場での指導) |
|---|---|---|
| 決めること | 何を、どの順で、どこまでできればよいか | どう教えるか、覚えたかをどう確かめるか |
| 強み | 教える人が替わっても中身がそろう | 手の動き・声の出し方・間合いなど、文字にしにくいことが伝わる |
| 弱み | 読むだけでは体が覚えない | 教える人の癖がそのまま移りやすい |
マニュアルで「中身」をそろえ、OJTで「身につける」。この分担を先に決めておくと、どちらに何を書けばよいかで迷いません。なお、入店直後の受け入れ(初日の担当決め、最初に覚える仕事の絞り込み、1か月目の面談)は飲食店でアルバイトが定着しない5つの原因と対策で扱っているので、ここではその先の「教える中身と教え方」を中心に説明します。
新人教育マニュアルの作り方
仕事を「作業」の単位に分けて並べる
最初に、ホール・キッチン・洗い場などのポジションごとに、新人が担当する仕事を書き出します。「ホール業務」のような大きなくくりではなく、「ご案内」「お冷とおしぼりの提供」「オーダーの受け方」「料理の運び方」「下げ物」「会計」のように、1回の動きで完結する作業に分けるのがコツです。
そのうえで、開店前・営業中・閉店後の流れに沿って並べ、どの順番で教えるかを決めます。最初に覚えてもらう作業は、1人で任せやすく、失敗してもお客様への影響が小さいものから選びます。
1つの作業を4つの項目で書く
作業ごとに、次の4つの項目をそろえて書きます。
- 手順:作業を3〜7つほどの段階に分け、上から番号を振ります。「丁寧に」「素早く」のような言葉ではなく、何をするかという動作で書きます。
- ポイント:失敗しやすいところ、品質や安全を左右するところです。1つの作業につき2〜3点までに絞ります。
- 理由:なぜそうするのか。理由が分かっていると、マニュアルに書いていない場面でも判断がつきやすくなります。
- できている状態:何ができたら合格か。「盛り付けが見本の写真と同じになる」「ご案内から着席まで、お客様を入口で待たせずにできる」のように、見て判断できる形で書きます。
抜けやすいのは4つ目です。基準がないと、教える側は「まだ早い」、新人は「もうできている」と受け止めがずれ、どちらにも不満が残ります。
文字より写真、1つの作業を1ページに
盛り付け、器の置き方、テーブルセッティング、清掃を終えたあとの状態などは、文章より写真のほうが早く正確に伝わります。店内でスマートフォンを使って撮った写真で十分です。1つの作業を1ページにまとめ、分厚い1冊にしないようにすると、必要なところだけを開いて確認でき、差し替えも簡単になります。
接客の場面で何を決めておくか(場面ごとの決めごと・お酒の年齢確認やアレルギーの質問など困ったときの決まり)は、飲食店の接客マニュアルでご説明しています。
衛生の項目は店の衛生管理計画とそろえる
手洗い、器具の洗浄・消毒、食材の温度管理といった衛生に関わる作業は、マニュアルの中でも先に整えておきたい部分です。厚生労働省は、令和3年6月1日から原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理に取り組んでもらうことになったと案内しています。そのうえで営業者が実施することとして、衛生管理計画を作成して従業員に周知徹底を図ること、必要に応じて手順書を作成すること、実施状況を記録・保存すること、計画と手順書の効果を検証して必要に応じて見直すことを挙げています。
また、食品衛生法施行規則の別表第十七には、教育訓練として「食品等取扱者に対して、衛生管理に必要な教育を実施すること」が定められ、洗剤や消毒剤などの化学物質を扱う人への教育訓練や、教育訓練の効果を定期的に検証し、必要に応じて教育内容を見直すことも求められています。同じ別表には、下痢・発熱・おう吐などの症状がある従業員について、症状の詳細を把握し、医師の診察や作業の中止が必要かを判断することも定められています。
新人教育マニュアルの衛生の項目は、店の衛生管理計画や手順書と中身をそろえ、別々の決まりが並ばないようにしておきます。手洗いや消毒の手順に加えて、洗剤や消毒剤の扱い方、体調が悪いときに誰へどう申し出るかも、入店の早い時期に伝えておきたい項目です。計画づくりから始める場合は、厚生労働省のページで紹介されている、食品等事業者団体が作成した業種別の手引書を確認し、細かな運用は管轄の保健所にご相談ください。
OJTの進め方は4つの段階で
マニュアルができたら、それを使って現場で教えます。1つの作業を教えるときは、次の4つの段階で進めると、教える人が替わってもやり方がそろいやすくなります。
段階1:教える前に準備する
その日に教える作業を1〜2つに決め、マニュアルの該当ページを用意します。教える時間帯は、できるだけピークを避けます。新人には「今日はこの作業ができるようになるのが目標です」と最初に伝え、前の職場などですでに知っていることがあれば聞いておきます。
段階2:やって見せながら説明する
教える人が実際にやって見せ、手順を1つずつ区切りながら説明します。このとき、マニュアルの「ポイント」と「理由」もあわせて伝えます。一度に全部を伝えようとせず、覚えられる量に区切ることが大切です。
段階3:やってもらい、その場で直す
次に新人にやってもらいます。手順を声に出しながらやってもらうと、どこを理解できていないかが分かります。間違いはその場で、手順のどこが違ったかを具体的に伝えて直します。「違う」だけで終わらせず、正しいやり方をもう一度見せてからやり直してもらいます。
段階4:任せて、確かめる回数を減らしていく
できるようになったら、実際の営業で任せます。ただし放っておくのではなく、分からないときに誰に聞けばよいかを決めておきます。最初は近くで見守り、問題がなければ確かめる回数を少しずつ減らします。マニュアルの「できている状態」を満たしたら、その作業は習得済みとして記録します。
この4つの段階は、キッチンの仕込みでも、接客の言葉づかいでも同じように使えます。教える人全員がこの順番を共有しておくと、「先輩によって教え方が違う」という新人の戸惑いを減らせます。
覚えたことを習得チェック表で見える化する
誰がどの作業をどこまでできるのかは、記憶に頼るとすぐに分からなくなります。マニュアルの作業一覧をそのまま行にした習得チェック表を作り、新人ごとに記録しておきます。次の表は記入例です。
| 作業 | 教えた日・教えた人 | 見守りでできた日 | 1人でできた日 |
|---|---|---|---|
| ご案内 | 10月1日・店長 | 10月3日 | 10月8日 |
| オーダーの受け方 | 10月3日・Aさん | 10月6日 | (未) |
| 会計 | (未) | (未) | (未) |
段階を「教わった」「見守りでできる」「1人でできる」の3つに分けておくと、シフトを組むときに、その人に任せてよい作業がひと目で分かります。新人本人にも見える場所に置いておけば、自分がどこまで進んだか、次に何を覚えればよいかを確かめられます。できるようになったことが待遇に反映されないことは、前掲のアルバイト定着の記事でも、定着しない原因の1つとして挙げています。
教える時間と教える人を先に確保する
マニュアルとOJTの手順を用意しても、教える時間がなければ回りません。新人が入るシフトでは、教える人の持ち場を少し軽くしておくなど、教える時間を人員配置の段階で見込んでおきます。
あわせて気をつけたいのが、教育にかかる時間の扱いです。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、労働時間として扱わなければならない時間の例として、「参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間」を挙げています。開店前などに参加を義務づけた研修の時間は、ここに当たるため労働時間として扱う必要があります。また、マニュアルを自宅で読んでくるよう指示する場合も、「使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間」に当たる可能性があります。同ガイドラインは、労働時間に当たるかどうかは就業規則などの定めによらず、使用者の指揮命令下に置かれていたと評価できるかどうかで客観的に決まり、それは使用者から義務づけられていたか、そうせざるを得ない状況だったかなどから個別具体的に判断されるとしています。迷う場合は管轄の労働基準監督署や社会保険労務士にご確認ください。
教える人を育てることも欠かせません。4つの段階とマニュアルの使い方を、まず店長や経験の長いスタッフの間でそろえておくと、教える人を増やしやすくなります。教える役を任せたスタッフには、その役割も評価の対象になることを伝えておくと、教えることが「余計な仕事」になりにくくなります。
マニュアルを古くしない運用
マニュアルは、店の今のやり方と合っていてはじめて役に立ちます。次の4つを決めておくと、古くなるのを防げます。
- メニューや手順を変えたら、その場で該当ページを差し替える:メニュー改定のときは、レシピ・盛り付けの写真・お客様への説明の言葉まで更新します。改定そのものの進め方はメニュー改定の進め方|時期の決め方と5つの手順で解説しています。
- 各ページに更新日を入れる:どれが最新か分からなくなるのを防ぎます。
- 新人から出た質問をマニュアルに戻す:同じ質問が2回出たら、その答えはマニュアルに書いておくべき内容です。
- 見直す時期を決めておく:半年に一度など、時期を決めて全体を見直します。衛生の項目は、前述のとおり教育の効果の検証と見直しが求められている部分でもあります。
出典:厚生労働省ホームページ「HACCP(ハサップ)」、同「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)、食品衛生法施行規則 別表第十七。本記事では、これらの内容を要約・編集して紹介しています。
新人教育の仕組みづくりをご相談いただくとき
当社は2006年の創業から飲食店の経営支援ひとすじで取り組んできました。経営改善・各種研修では、新人研修・店長研修を通じて、接客・調理・衛生管理の基本をそろえ、教える人によって差が出ない状態づくりをお手伝いしています。そもそも何人必要なのか、入ってもすぐ辞めてしまうのはなぜかといった整理は飲食店の人手不足のページでご説明しています。初回のご相談は無料です。


