飲食店の値上げの伝え方|お客様に納得してもらう手順
飲食店の値上げは、「いつから」「なぜ」「何が変わり、何が変わらないか」を、改定の前から同じ言葉で伝えると受け止めてもらいやすくなります。反対に、ある日突然メニューの数字だけが変わると、お客様には「高くなった」という事実だけが残ります。ここでは、値上げを伝える前に決めておくこと、告知文の書き方、スタッフの答え方、値上げのときに気をつけたい決まり、値上げ後の確かめ方を順に整理します。
値上げが伝わらないお店で起きていること
値上げそのものより、伝え方で不満が大きくなることがあります。よく見られるのは次のような状態です。
- 告知がなく、会計で初めて気づく:注文した後に価格が違うと分かると、金額以上に「知らされていなかった」ことへの不満が残ります。
- 理由が書かれていない:「価格改定のお知らせ」と新しい価格だけでは、お客様は理由を想像するしかありません。
- 全品を同じ率で上げている:毎回頼まれる看板の品まで一律に上がると、値上げが一番目につく形で伝わります。
- スタッフによって説明が違う:聞かれたときの答えが人によって違うと、説明そのものが信用されにくくなります。
- 表示が場所によって違う:メニュー、店頭、レジ、公式サイトなどで価格がそろっていないと、それだけでトラブルの元になります。
どれも、値上げを「価格の変更」だけで終わらせ、「お客様への説明」として準備していないことから起きています。
値上げを伝える前に決めておく3つのこと
1. どの品を、どれだけ上げるか
全品一律に上げるより、仕入れ値の上がり方や1皿で残る利益を品ごとに見て、上げる品と据え置く品を分けるほうが、お客様の受け止め方にも利益にも違いが出ます。来店のきっかけになっている看板の品や価格帯の品は、上げ幅を小さくする、あるいは据え置くという判断もありえます。値上げの後に客数がどこまで減っても利益を保てるかの計算は、飲食店の利益率と損益分岐点のページで説明しています。
2. いつから上げるか
改定日を決めたら、そこから逆算して告知を始めます。常連のお客様が来店する間隔を目安に、改定前に一度は告知を目にしてもらえる期間をとると、「知らなかった」を減らせます。月替わりのメニューや季節の切り替えと時期を合わせると、メニューブックの作り直しも一度で済みます。改定日をまたぐコースや宴会のご予約があれば、ご予約時にお伝えした価格をどう扱うかを決め、当日の会計より前にお客様と確認しておきます。
3. 量や内容を変えるかどうか
価格を据え置いて量を減らす、付け合わせを変えるといった方法もあります。この場合も、変えたことは伝えるほうが安全です。黙って量を減らすと、気づいたお客様の不信は値上げより大きくなりがちです。メニューの写真や説明文も、実際に出す料理に合わせて差し替えます。写真や説明が実物とかけ離れていると、内容によっては、景品表示法が禁じる、実際のものより著しく優良であると示す表示(優良誤認)の問題になるおそれもあります。
お客様への伝え方と告知文の書き方
告知文に入れたいのは次の4つです。
- いつから:改定日をはっきり書きます。
- なぜ:食材の仕入れ値、光熱費、人件費など、自店に実際に当てはまる理由を書きます。事実と違う理由や、大げさな言い回しは使いません。
- 何が変わらないか:量、使う食材、作り方など、続けることを書きます。実際に変えていないことだけに限ります。
- お礼:これまでのご来店へのお礼で締めます。
店頭やメニューに掲示する文は、たとえば次のような形です。理由と「変わらないこと」は、自店の実際に合わせて書き換えてください。
「〇月〇日より、一部メニューの価格を改定いたします。食材の仕入れ価格や光熱費の上昇が続き、これまでの価格では同じ品質を保つことが難しくなりました。料理の量と味は、これまでどおり変えずにお出しします。日ごろのご来店に、心より感謝申し上げます。」
告知は1か所だけでなく、お客様が価格を目にする場所でそろえます。
| 場所 | 伝え方のポイント |
|---|---|
| 店頭・入口 | 入店前に分かるよう、改定日と理由を短く掲示する |
| メニューブック・卓上 | 改定日に新しい価格へ差し替え、それまではお知らせを添える |
| レジ・券売機 | 登録している価格を改定日に合わせて切り替える |
| 公式サイト・SNS | 改定日と理由を、店頭と同じ言葉で載せる |
| 地図サービス・予約サイト・デリバリー | 掲載しているメニューと価格を更新する |
価格を出している場所の洗い出し方や、税込価格で表示する決まり、店内飲食とテイクアウトの価格の表示方法は、メニュー改定の進め方の記事で整理しています。
スタッフが同じ答えを返せるようにしておく
値上げについて最初に尋ねられるのは、多くの場合ホールのスタッフです。改定日の前に、聞かれそうなことと答えをそろえて、全員で共有しておきます。
- 「なぜ上がったの?」:告知文と同じ理由を短く答えます。スタッフが自分の推測を付け足さないようにします。
- 「いつから?」「どれが上がったの?」:改定日と対象の品を答えられるよう、一覧を手元に置いておきます。
- 「量は変わるの?」:変えた点と変えていない点を、事実どおりに答えます。
答えに迷う質問を受けたときは、その場で説明を重ねず、店長や責任者に引き継ぐ流れを決めておくと、スタッフが一人で抱え込まずに済みます。
同業のお店と値上げを申し合わせない
「近所のお店も上げるようだから、一緒に上げよう」という話になったときは注意が必要です。独占禁止法は、事業者が他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、引き上げるなどして、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること(不当な取引制限)を禁じています(第2条第6項・第3条)。同業者どうしで値上げの時期や幅を申し合わせると、この問題になるおそれがあります。
組合や同業者の会などの事業者団体で決める場合も同じです。公正取引委員会の「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」は、事業者団体が値上げ率や値上げ幅を決定することを、原則として違反となる価格制限行為の例に挙げています。同じ指針は、組合などの場で、それぞれのお店の価格の具体的な計画や見通しを集めたり、お店どうしの情報交換を促したりすることも、違反となるおそれがある活動として挙げています。値上げをするかどうか、いくらにするかは、それぞれのお店が自店の数字をもとに決めるものとして進めてください。
出典:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 第2条第6項・第3条、公正取引委員会「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」、不当景品類及び不当表示防止法 第5条第1号(優良誤認の説明)。
値上げの後に確かめること
値上げは、改定した日で終わりではありません。改定から数週間たったら、客数、客単価、品ごとの出数を、前の年の同じ時期や改定前の同じ長さの期間と比べます。その際は、営業日数や曜日の並び、天候の違いもあわせて確かめます。客数が想定より落ちているのか、特定の品だけ出なくなったのかで、次に打つ手が変わります。売上の変化を客数・客単価・新規と再来店に分けて見る方法は、飲食店の売上が落ちた原因|最初に見る3つの数字の記事で紹介しています。
あわせて、スタッフが受けた質問やお客様の声も集めておきます。どの品の値上げに反応があったかは、次の価格の見直しや、メニューの組み立て直しの材料になります。
値上げの進め方に迷ったら
株式会社アトラクトは、2006年の創業から飲食店の経営支援ひとすじで取り組んできました。業態開発・商品開発では、今のメニューを活かしたまま、原価・工程・見せ方を調整する「既存メニューの改良・原価の見直し」を行っており、「値上げしたいが客離れが心配」といったご相談にも対応しています。原価率と仕入れの見直しや、メニューブックの構成・見せ方の改善もあわせてご相談いただけます。初回のご相談は無料でお受けしています。


